第16話
頭がグラグラして痛い。凄い吐き気がする。
口を開いたら吐いてしまいそうな気がしたけど、言わずにはいられない。私は傍で面目無さ
そうな顔をしているザレオに言った。
「飲み明かし過ぎよ、馬鹿」
『・・・悪ィ』
信じられないわ。ストレートウイスキーを三杯飲んだ後、二人で色々な酒瓶をどんどん空けて
行って。
お陰で私は凄い二日酔いよ。文句を言うのも辛いわ。
「ザレオは全然酔わないからなあ」
呑気に言うけど、貴方も相当ザルよね、アルバルトさん。
「はい薬。飲む前にこれ食べてね。ミユキちゃんから教わった、ジャパニーズリゾットだよ」
「すみません」
もう話すのも億劫だわ。
アルバルトさんが作ってくれたリゾットは美味しかった。薬のお陰で気分は大分楽になったけ
ど、帰宅は夕方になりそうね。
それから二日経った頃、ブリッジ刑事の事がニュースに出た。
彼は生きていた。でも、『無事』ではなかった。
全治四ヵ月ほどの大怪我を負い、精神も酷く病んでいた。
ブリッジは意識を取り戻した時に、半狂乱になりながら自分が犯した罪を告白した、と記事に
載っていた。
ザレオはそれに対し、
『彼女達に生かされたんだろ』
との事。
「生かされた? 『彼女達』は殺したいほど憎んでいたはずよ」
あの夜に感じた『彼女達』の憎悪は、思い出しただけでもゾッとする。
ザレオは感情を込めずに言った。
『彼女達はあれだけじゃ満足していない。俺は自分の仕事は終えた。後は彼女達に任せるさ』
その言葉だけでも背筋が寒くなるわね。
これから死ぬまで、ジューグ・ブリッジは自分が殺した『彼女達』に脅かされるのだろう。
テレビのブラウン管を通して、私は『彼女達』の笑い声が聞こえた気がした・・・。
「思ったんだけど、あの時に現れた『彼女達』は、ザレオが呼んだの?」
私に憑いて来た気配は無かった。私の部屋に現れた少女の霊も、朝になったら気配が消え
ていたし。
ザレオは首を横に振った。
『いいや。俺の存在が幽霊だし、野郎も居た。何か引き寄せるもんがあったのかもな』
「そう・・・」
ザレオもよく解らないみたいね。
でも『彼女達』のお陰で、私の身体でザレオはブリッジを仕留める事は無かった。
正直、それにはホッとしている。
これで全部終わったのよね。これでもうブリッジによる犠牲者は出ない、私達も元の生活
に・・・・
『さてと』
「何?」
『俺、逝くわ』
一瞬、言葉を失くした。
「・・・まだ、早くない?」
『遅いぜ。このままじゃ、マジで自縛霊になっちまう』
そうだった。ザレオは此処に居られない存在だった。
私にとって、もうザレオが此処に居るのは当たり前だった。彼が此処に居られない事を、また
すっかり忘れていた。
「・・・・・・解ったわ」
私は携帯の履歴に残っていたアルバルトさんの番号に。連絡を入れた。
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