第15話

「こ・・・っの馬鹿鳩がーーーッ!!」
 アルバルトさんの部屋に戻ったザレオの第一声がそれだった。しかも、思いっきりグーで
パンチ付き。
「い、痛い・・・かなり痛い! 帰って来るなり何だよっ」
「なあ、刑事野郎は銃を二挺持ってたぜ?」
「・・・マジ?」
「何が凄腕の情報屋だ! 死んで詫びろ眼鏡鳩!!」
「ぎゃーッ! 痛ッ、ギブギブ!! 死ぬ、ほんとに死ぬ!」
 ・・・確かに危ないところだったけど、私の身体で絞め技をしないでよ。
「ったく」
 ザレオはぐったりしたアルバルトさんを放置すると、勝手に冷蔵庫を開けて、缶ビールを取り
出した。
 ザレオは大きく息を吐いて、ビールを少しだけ口に含んだ。
 そしてザレオは、何処か遠慮がちに私に話しかけて来た。
「・・・・・・まだ、怖いか?」
『ちょっとだけ。でも大丈夫よ。ザレオだって』
「あ?」
『酷く心が疲れてる』
「・・・心配無ェよ」
 ほら、また無理して笑ってる。
 仕事が終わったら、貴方はいつもこんな苦しい気持ちに満たされてたの?
 そうよね・・・。被害者を想って仕事を片付けても、還って来る人は居ないのだから。
「ザレオ」
 アルバルトさんが眼鏡を直しながら、向かい側に座った。
 場の空気は一変する。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 しばしの沈黙の後、アルバルトさんが先に口を開いた。
「君もケイディちゃんも無事で良かった」
「ちっとばかし怪我したがな」
 ザレオは掠り傷がある手の甲を見せる。アルバルトさんは、早めに手当てしときなよ、と
言った。
「君達を待ってた間、凄く胃が痛かった」
「ナイーブな奴」
「相手は軍に居た奴だし」
「先手必勝。すぐに野郎の足を撃った」
「・・・君が無事で本当に嬉しい。でも、君はもう・・・・・・」
「・・・・・・」
 ザレオは・・・既にこの世の人じゃない。
 今にも泣きそうなアルバルトさんを見て、ザレオは強がって言った。
「辛気臭ェな。気色悪い」
「るさい」
 ザレオはちょっと苦笑を漏らした。
「・・・飲み明かそうぜ、アルバルト」
 いつものザレオの口調だった。


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