第13話
ザレオはバイクに乗って、ブリッジ刑事の車を待ち伏せた。
「もうすぐ来るよ」
イヤホンからアルバルトさんが知らせてくれた。
ザレオはバイクを降りて、人気の無い夜の街路を歩き出した。
『何しているの?』
「一人だってのをアピールしてるんだよ。周りには誰も居ない、加えて今の俺は女の姿だ。
野郎は食いつく、絶対な」
凄い確信の心が伝わる。
そして、ザレオの傍を一台の軽車が通り過ぎ、すぐ十字路を曲がった。
「ビンゴ。ブリッジの車が帰宅経路から外れたよ」
アルバルトさんがそう言うと、私の身体に極度な緊張が走った。
この緊張は恐怖だけじゃない。私自身も刑事に怒りを感じているのよ。
『まだ犠牲者を出す気なの? 昨日事件があったって言うのに・・・!』
「一種のビョーキと思ってもいいだろ。野郎にこっちの常識が通用しないって事、覚えておきな」
ザレオの気持ちも怒りでいっぱいだった。押し潰されそう・・・。
「ブリッジは君を追ってるよ」
イヤホンからアルバルトさんがそう伝える。あの刑事、車を降りてついて来ているのね。
ザレオはどんどん人気の無い路地へ入って行く。街灯もまばらになり、辺りは暗さを増して
行った。
ザレオは時々ゆっくりと足を止めて、後ろを振り返った。
誰も居ない。ううん、相手の姿が見えないだけよ。
そして足を速めて歩き出し、しばらくしてから駆け出した。
後ろから駆け出す足音が聞こえた!
ザレオは本気で走っていない。相手との距離を一定に保っている。
走りながら振り返ると、ザレオ・・・もとい私を追ってくる人が見えた。
暗くてよく顔が見えないけど、あれがブリッジ刑事なのね・・・。
辺りはほぼ暗闇の道になり、そしてザレオは廃墟となったビルにたどり着いた。前もって
ザレオが見つけておいた廃屋ビルだ。
「此処が野郎の墓場だ」
廃墟を見上げたザレオがそう呟いた。
ザレオは廃墟ビルの階段を駆け登る。後ろからは刑事がしつこいくらいについて来る。
広いフロアに着いた。
空き缶や食べ物の袋が散乱していて、不良達のたまり場にもなっていたみたいね。
ザレオの足が止まり、アルバルトさんとの通信を切った。
「もう逃げないのかい」
暗闇のフロアに声が上がった。
もう大分目が慣れたわ。この男が、ジューグ・ブリッジ刑事なのね・・・。
「怯えなくていい。私は刑事だ。刑事だからと言って、犯罪に手を染めない訳じゃ無いけど
なあ」
狂ってる・・・!
私がそう思った瞬間、銃声が上がった。
ザレオの拳銃だ。彼は容赦なくブリッジの両足を撃ち抜いた。
「ぐああっ!? こ、この・・・!」
まさか私が拳銃を持っていたとは、ブリッジも思わなかっただろう。
ブリッジは床にはいつくばり、自分の拳銃を取り出したが、呆気なくザレオの拳銃に弾かれ
た。
「無駄口は事が終わってから言うんだな」
ザレオはブリッジに近付き、冷たく見下して言い放った。
「き、貴様、こんな事をして、ただで済むと思うな!」
「テメェも何人も女を殺しておいて、楽に逝けると思うなよ」
ザレオはブリッジの腹部を強く蹴り飛ばした。ブリッジの悲痛な叫び声が上がる。
「ううぅ・・・」
ブリッジは腹部を抑えてうずくまる。足からの出血も、止まる気配が無い。
身体的にはかなりダメージを受けているわ。でも・・・。
「彼女達の苦しみは、こんなんじゃねえぞ」
そう。精神的には、『彼女達』の方が何倍も上よ!
「ぐ・・・貴様、い、一体何者だっ」
「テメェにとっちゃ死神だ」
苦痛に歪むブリッジの顔が、一瞬嘲笑ったような気がした。
そしてまた銃声が上がった。
待って、ザレオは撃ってないわ!
「つぅっ!」
ザレオの拳銃が、ブリッジが隠し持っていた拳銃で弾かれてしまった! 手には掠り傷を
負っただけだった。
「野郎ォ・・・まだ銃を持っていたのかっ」
ブリッジは引きつった、薄気味悪い笑みを浮かべた。
「死ねぇ!!」
銃口がザレオ、私の身体に向けられ、ブリッジは引き金に置いた指に、力を込めた。
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