第12話

 ザレオの危なっかしい運転に何度も悲鳴を上げる事約三十分。
 私達はようやく射撃場に着いた。
 古くて汚いコンクリート造りの射撃場だ。予想したとおり。
 中に入ると銃声が聞こえた。此処でもうこんなに聞こえるのね。
 受付の柄の悪いおじさんにお金を払うと(勿論ザレオのお金)、ジロリと睨まれた。ザレオは
気にせずニヤリと笑い返す。
 か・・・帰りたい・・・。
 おじさんは乱暴にヘッドホンを出すと、もう興味無さそうに雑誌を読み出した。
 ザレオはヘッドホンを受け取って、射撃場のドアを開けた。
 途端、鋭い銃声が耳を貫き、身が竦み上がった。
『凄い音ね・・・』
「すぐに慣れるさ」
 ザレオはヘッドホンをかけて、射撃の位置に着いた。カバンから拳銃を取り出し、慣れた手つ
きで弾を込める。
 私が撃つ訳じゃないのに、酷く緊張して来た。
 銃口が人型の的に向けられる。
 そして、ザレオは引き金を引いた。
『きゃっ』
 銃声と振動が私にも伝わった。
 ザレオはしばし静止し、そして立て続けに三発撃った。
「・・・鈍ってやがる」
 手の痺れが伝わる。
『や、やっぱり、私の身体だから?』
「いや、それは関係ない。悪ィな、気にしないでくれ」
 ザレオは構え直し、慎重に引き金を引いた。
 ザレオが撃った弾は、全部的の急所に当たった。弾込めも速く、終わるとすぐに的を狙い
撃つ。
『凄い・・・』
「落ちた方だぜ。以前は一つの穴に、六発全部ショットしたんだけどよ」
『嘘っ!?』
「ウソ」
『・・・・・・』
 まったく・・・。さっきまで真剣な雰囲気だったくせに、今は悪戯が成功した子供みたいよ。
 ザレオは一旦手を休めると、傍に居たギャラリーに気付いた。
 全員男性。紅一点の私は浮いた存在よね。・・・露骨にニヤニヤしながら見られると、凄く
嫌だわ。
「ほっとけよ、ケイ」
『ん・・・』
 まあ、ザレオが居るから大丈夫よね。
 そう思った矢先、一人の男性が近付いて来た。話し掛けるのでもなく、ただ私の傍を通り過ぎ
ようとした。
 ・・・が、ザレオが素早く振り返り、突然その人の手を掴んだ。
「気安く触るな」
 どうやらこの男性、どさくさに紛れて私に触ろうとしてたみたい・・・。
 私の身体に似合わないザレオの握力に、その人は酷くギョッとしていた。
 ザレオが手を振り払うと、男性はこそこそと行ってしまった。ザレオは気を取り直して、弾込め
をし始めた。
 その時、ザレオの言葉が伝わった。

 お前は俺が絶対護る・・・。



「せめてさあ、夕食の時くらいケイディちゃんと代わ」
「うっせえよ、小鳩」
 射撃の練習を終えて、私達はアルバルトさんの部屋に戻り、夕食を頂いていた。
 しきりに私に代われと言い張るアルバルトさんに、ザレオはきつく拒否する。
 この二人、仲悪いのかしら。
「とっとと飯食ったら、刑事野郎を追跡しろ」
「人使いが荒い」
「小鳩のくせに、ガタガタ言ってんじゃねえよ」
「小鳩は止めろって」
「アジアの枝豆が好物だろーが」
「君はニンジンが食べれないくせに」
「ばっ、言うな阿呆!」
 ・・・・・・この低レベルな言い合いが早く終わらないかしら。

 夜12時を回った頃に、アルバルトさんの声が低めに上がった。
「ブリッジが帰宅経路に入ったよ」
 ザレオの気持ちが私に伝わる。緊張、怒り、揺らぎ無い真剣さ。
「行ってくる。通信はイヤホンを使うから、頼むぜ」
 ザレオは拳銃をズボンに押し込んで装備し、アルバルトさんが作ったイヤホンを耳に、それに
繋がっているマイクを口元に持って来た。
「ザレオ、気を付けろよ」
「ああ」
 お互いに拳を軽くぶつけ、ザレオはアルバルトさんの部屋を出た。
「ケイ、お前は眠ってろ」
『嫌よ。最後まで貴方と居る』
 その時、ザレオの微かな安堵を感じた・・・。


  次へ