第11話

 翌日。
『なあ、アルバルトん家に行ってくれないか』
「・・・何処の誰かが馬鹿みたいに猛スピードで自転車こいだ所為で、凄ーく筋肉痛なんだけ
ど?」
 引き攣った笑みを浮かべて、ザレオを睨みつけた。
『運動不足なんじゃねえか?』
「巨大なお世話よ!」
 断りたいくらいだけど、事件関連なら仕方ないわ。
 私は再びアルバルトさんのアパートへ向かった。・・・しかも拳銃を持って。
 物騒な物を持ってると、人と擦れ違う度にびくびくしちゃうわ。
『お前、挙動不審者みたいだぞ』
「誰の所為よ!!」

 そして、アルバルトさんのアパートに着いた。ザレオが私の身体に取り憑く気配は、まだ
無い。
 いつ不意をついて憑くのやら、と思いながら、私はベルを鳴らした。
 アルバルトさんは相変わらず出るのが早かった。
「はいはーい。あっ、ケイディちゃんじゃない! ・・・と見せ掛けて、ザレオ?」
 凄い警戒心。頭の隅で、ザレオが舌打ちをついた。
「い、いえ。一応、私です」
 何だか、変な会話。
「本当? 良かった。あ、入って入って」
「お、お邪魔します・・・」
 私が部屋に入っても、ザレオはまだ憑かなかった。
 部屋に入るなり、アルバルトさんのマシンガントークが始まった。
「ケイディちゃん、ごめんね。勝手に番号調べて。本当はそーゆーのは、本人に直接聞く主義
なんだけど、事件発生と来たからさあ。今度一緒に、お茶でもどう?」
「どういう主義だ。気色悪ィ」
「えっ!? あ、ザレオ? いきなり代わるなよ!」
 黙れ小鳩、とザレオは言って、出されたカフェオレを飲んだ。
 突然憑いたのは何だけど、ザレオの言い分には激しく同意ね・・・。
 ザレオは眉間にシワを寄せて、アルバルトさんに言った。
「あのクソ刑事の行動情報を入手しろ。今夜仕留める」
 途端、私とアルバルトさんは顔を強張らせた。
 アルバルトさんはザレオに聞き返したりはせず、ただ頷いた。
「OK・・・。ブリッジ刑事の携帯から、居場所を探り当てるよ」
「頼りにしてるぜ、小鳩」
「小鳩ゆうなって。・・・今度は慎重に行きなよ? 君のその身体は」
「解ってる。この身体はケイディのだ。俺のじゃない」
 アルバルトさんは急に哀しい顔になった。
「刑事の件が片付いたら、君は逝くのかい?」
「・・・ああ。いつまでも此処には、居られないからな」
 ザレオの言葉を聞いて、私はハッとした。
 そう・・・だったわ。ザレオは、ずっと此処には居られないんだわ・・・。
 アルバルトさんはパソコンに向かい、物凄い早さでキーを打ち出した。
 私はしばしその様子を感心して見ていると、ザレオの声が頭に響いた。

 すまねえな・・・。

『・・・何よ、今更。私だって馬鹿じゃないわ。拳銃握って刑事に挑む事は、ずっと覚悟していた
もの』

 お前の手を穢す事になるんだぞ。

『それだって解っていたわ。うじうじ後悔するなら、初めから憑かなければ良かったのよ』

 ・・・・・・悪ィ、本当に・・・。

『だからあ』
 じれったくなった。
 言葉じゃ上手く伝わらないわ。私はありのままの 『気持ち』を、ザレオにぶつけた。
 私だって何度も悩んだわ。例え私の意志でなくても、拳銃を握るのは私の手。
 拳銃を握るのは恐い。でも、もし昨日の『彼女』が・・・ターナだったら?

 私は・・・本当に恐ろしい事だけど、自分から拳銃を握っていたかも知れないのよ・・・。

『それに、私も一度そういう目に遭ってるのよ? もう他人事じゃないと思ってるわ』

 ・・・ケイ・・・・・・

「ブリッジ刑事の居場所が解ったよー」
 アルバルトさんの声に、私達は現実に引き戻された。
 ザレオは席を立ってアルバルトさんの傍に寄り、パソコンの画面を覗き込んだ。
 パソコンの画面には簡単な地図が表示されていて、小さな点が移動しながら点滅していた。
 この点が、あの刑事なのね・・・。ザレオから若干の怒りが私に流れて来た。
 アルバルトさんは点を指差した。場所的に、昨日事件があった川付近ね。
「現場付近で聞き込みしているみたいだね。夜になったら帰宅すると思うけど・・・」
「そのまま張っといてくれ」
 ザレオはそう言って、アルバルトさんから少し離れた。
「ケイ」
『何?』
「今夜は家に帰れないから、親に言い訳考えておいてくれよ」
 あ・・・そうよね。どう言い訳しようかしら。

「はい、ターナでーす。あ、ケイ。え? 今日うちに泊まってる事にして欲しいの? 解った、さて
はカレシね〜。フフ、照れない照れない。うん、任せといて」
「もしもし。あら、ケイディ。どうしたの? ・・・今日ターナちゃんの家に? いいけど、迷惑かけ
ないようにね」
 ターナとママに嘘の連絡して、今夜の心配は無くなった。
 これでいいわ。
『しっかしなあ』
 ザレオは溜息を吐きながら言った。
「まだ何か不満?」
『お前、またミニだし。今日は今まで以上に、派手に動くんだぞ?』
 ・・・だったら此処に来る前にツッコミなさいよ!
 仕方ないからザレオが生前に遺しておいたお金で、近くのショップでズボンとスニーカーを購
入した。
 これでもう文句は無いでしょ。
 アパートに戻っても、アルバルトさんはパソコンの画面を見続け、忙しなくキーを叩いてた。
『おい、俺達にはやる事があるぞ』
 アルバルトさんの働きぶりに感心しているところへ、ザレオの声が上がった。
「何をするの?」
『射撃の練習』
 サラっととんでもない事言ったわ、この幽霊。
「射撃ですって!?」
 この私の姿で、やばそうな人達が居る練習場に行く気なの!?
『やばそうって・・・とんだ偏見だな。まあ、あながち間違いでもないが』
 そう言うと、ザレオは私と入れ代わり、拳銃が入ったカバンを持った。
「アルバルト、バイク借りるぞ」
 私、無免許なんですけど! スピード違反とかしないでよ!?
 アルバルトさんが生返事を返す前に、ザレオは彼のポケットからキーを取って行った。
 不安だわ・・・かなり不安。
「安心しなって。バイクで警察に捕まった覚えは無いからよ」
『本当でしょうね』
「ああ。皆、上手く逃げ切っていたからな」
 ・・・・・・身体を返しなさい!! この大馬鹿幽霊!!


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