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第10話

 何て事だ、と私は愕然とした。
 アルバルトさんから事件の場所を聞けば、スーパーに来る途中にあった川付近だった。
 ザレオは情報を聞くとすぐに自転車に乗り、物凄い勢いで川に向かった。
 その時のザレオの心は、震えるくらい恐かった・・・。
 河原には警察や野次馬が大勢居た。
 川に着くなり、ザレオは何も言わずに私の身体から出て、人が群がってる所へ行ってしまっ
た。
 ザレオが激しく自転車をこいだ所為で、その疲労がドッと私の身体に来た。
 私は息を切らせて、自転車に項垂れたまま、ザレオを待った。
「はあ・・・はあ・・・」
 気分が悪い。疲労だけの所為じゃないのは、百も承知よ。
 恐怖と怒りの念が、この付近に漂っている。その姿は見えないけど、ザレオが居る所に行け
ば、きっと・・・。
『大丈夫か?』
「・・・ザレオ」
 いつの間にか、ザレオが傍に来ていた。何だか、酷くホッとした。
『川の方を見るな。俺は後から行く。先に家に戻っててくれ』
 川を見れば『それ』に憑いて来られるのは、言われなくても解った。
 もしザレオと一緒に帰ったら、きっと『彼女』は私に霊感があるのを知り、憑いて来るに違いな
い。
 私はザレオに言われたとおり、先に自宅に帰った。川に居た『あの存在』が、憑いて来ない事
をひたすら祈って・・・。
 それにしても・・・酷く落ち着かない。ザレオ、早く戻って来て。


 もう大分経ったわ。空は真っ暗。何処で道草くってるのよ、あの幽霊は!
「・・・・・・」
 久々の開放なのに、何で私はこうも、人の身体を雑居アパート代わりにしてる幽霊の帰りを
待ち侘びてるのよ。
「・・・腹立つ」
 その時、私の部屋のドアが少し開いた。
「ママ? ・・・ザレオ?」
 返事が無い。
 やだ・・・。自然に開いただけよね?
 気味が悪くなって、すぐにドアを閉めた。
 気分が悪い。この感覚は・・・。
 そう思いながら振り返ると、そこにずぶ濡れの少女が立っていた。
「ひっ!?」
 背中がドアに当たる。逃げようとしてノブを回したけど、ドアが開かない!
 全身が震え上がった。再び少女を見る。何て激しい憎悪なの・・・!
 少女は全身水浸しで、肌は血の気が無くて蒼白。顔には短い髪が張り付いて、口元しか見え
ない。でも、私を睨んでいるのは解る。
 ピチャッと音を立てて、少女が私に一歩近づいた。
「こ・・・ないで・・・!」
 また一歩少女が近づく。
「いやっ・・・! ザレオ・・・ザレオーッ!!」
 無我夢中で叫ぶと、私の身体に何かが触れた。
『待て! こいつは違う!』
 ザレオの声・・・!?
 顔を上げると、ザレオが庇うように私を抱え込んでいた。
「ザ、ザレオっ」
 私は酷く安堵して、涙をこぼした。
 少女はザレオを見て、そしてゆっくりと首を動かして私を見ると、スウッと消えた。
 途端、腰が抜けて、私は床に座り込んだ。
 心臓はまだドキドキして、肩を弾ませて息をした。
 幽霊は見慣れているけど、ああいう怨みを持った幽霊に接触するのは慣れてないわ。
 恐かった。本当に恐かった・・・。
『大丈夫か? 彼女、まだ恐怖で相手が誰だか解らないくらい錯乱しててな。俺も説得するの
に骨が折れた。許してやってくれ』
 私は何度も頷いた。頭では理解しているつもりよ。でも、まだ震えが止まらない・・・。
 少し冷静になると、私は自分の肩に触れているザレオの手に目を向けた。
「・・・何で私に触れるの?」
『ああ、裏技』
「はあ?」
『さっきの彼女に、ちょいと教えてもらってな。強く触れようと思うと出来るらしいぜ?』
 らしいって・・・。それ、裏技なの?
 彼女が何処に行ったかは解らない。きっとその辺を彷徨っているのだろうけど・・・。
「先に帰れって言ったくせに、連れて来てどうすんのよ!」
『し、しょうがないだろ。彼女が死んだ川上に行ったら、錯乱状態で泣き付かれよ・・・』
 私も半泣きなんですけどね!?
「じゃあ・・・一晩二人で仲良くしてれば!?」
 そう言い捨てて、私は部屋を出た。・・・って、何で私が自分の部屋を出なきゃいけないのよ。
 しゃくだけどいいわ。今は・・・一人になりたい。
「・・・シャワーでも浴びよ」
 ザレオも来ないだろうし。あの少女も・・・来ないわよね? そうだといいわ・・・。


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