第7話
翌日、私はザレオに言われるがまま行動する羽目となった。
バスにしばらく乗って、市が変わったところで降りる。そこからまたしばらく歩くと、小さい造り
の白い壁のアパートに着いた。
「此処が貴方のアパート?」
『ああ』
そう。私はザレオが生前暮らしていたアパートに連れて来られた。何でも、此処に忘れ物が
あるとか。
『俺の部屋は三階の一番奥だ』
三階・・・一番上ね。しかもエレベーター無しか。
狭い階段を上って、一番奥の部屋の前に来る。此処からでも、日当たりが悪い場所だと解る
わ。
『仕事上、たまに窓から入らざるを得ない状況があってな。人目につかない部屋を選んだんだ』
また人の思ってる事を勝手に・・・。もう、好きにして。
『管理人は結構な怠け者でね、、きっと部屋のカギは空いてるだろ』
私はノブを回した。確かにカギは空いていた。
中は予想以上にガランとしていて、ちょっと埃臭かった。本当に此処の管理人さんて怠惰ね。
『まーた見事に片付けられたな』
「ご両親が?」
『いや、俺はもう随分前から独り身だ。知り合いが片したんだろ』
「・・・ごめんなさい」
『気にすんなよ』
ザレオは陽気に笑い、姿を現した。
ザレオは懐かしそうに部屋を見回し、また哀しそうに溜息を吐いた。
感傷に浸っている姿を見ている私に気付き、ザレオは気を取り直して寝室に入った。
恥ずかしい事なんて無いのに・・・。
『此処だ』
ザレオは寝室の壁を指した。
「壁がどうかしたの?」
『壁紙がちょいと捲くれてるだろ? この下に、ある物を隠してんだ。いっちょ、思い切って捲くっ
てくれ』
「捲くれって・・・借り家でしょ、此処!? 何勝手に改装してるのよ!」
『死人に口無し。ばれなきゃいいんだよ』
お喋りな幽霊がよく言うわよ。
私は呆れながら、壁紙を捲くった。
壁紙を捲くると、隠されていた穴が現れた。穴の中に、黒いビニール袋が置かれている。
私はそれを取り出して、壁紙を元に戻し、ビニール袋をザレオに見せた。
「これが忘れ物?」
『ああ。中身を出してくれ』
ビニール袋の口を空け、手を入れた。
何が入っているのかしら。冷たくて・・・堅い。金属?
中から取り出した物を見て、私は思わず放り投げてしまった。
『おい、乱暴に扱うなよ!』
「無茶言わないでよ! だって、これっ・・・」
床に転がった『それ』。シルバーメタリックに光る物は、紛れも無く拳銃だった。
「これ、拳銃じゃない!」
『まあ、水鉄砲には見えないよな』
「馬鹿!」
まったく、何て忘れ物よ! こんな物騒な物っ・・・。
『刑事だって銃を持ってるんだぜ? 物騒でも、こいつは必要だ。ほら』
ザレオは顎で拳銃を指し、私に拾えと目で言った。
「拳銃なんて、持った事無いわよ!」
『それがあったら驚きだ』
ザレオは笑ってそう言った。こっちは全ッ然笑えないわよ!
『弾は入ってないし、安全装置もかけたままだ。爆発なんてしねーから、早くしまいな』
小馬鹿にするようなザレオの口調に腹が立ち、私は自棄になって拳銃を拾った。
ずっしりとした重みが手に来る。拳銃なんて、ドラマや映画の中でしか見た事が無かったの
に・・・。
こんなに重くて、私の手に収まらない物とは、微塵も思わなかったわ。
私は拳銃をビニール袋に戻し、それをバッグに押し込んだ。
「弾は?」
『ビニールの中にある箱に詰まってる』
「そう。じゃあ、もう何も無いわね?」
『そうだな』
ザレオは周りを見回して言った。
部屋を出ようとしたところで、ザレオはふと思い付いたように口を開いた。
『・・・なあ、此処を片付けたと思われる知人に、ちょいと挨拶してもいいか?』
私は足を止めて、ザレオの方へ振り返る。
「その人、貴方が見えるの?」
『いや、駄目だろ』
嫌な予感が果てしなくするわ。意味深な目で私を見ないでくれる?
『また身体貸してくれよ』
ザレオがニヤリと笑った瞬間、目の前が真っ暗になった。
『ちょっと! まだ私は了承してないわよ!?』
「堅い事言うなよ。それに、こーゆーのは慣れた方がいいんだよ」
『私の声で男口調はやめてって言ったでしょ!』
「・・・お前、俺がカマ口調で喋ったら、どう思う」
『・・・・・・キモっ!』
「あえて言うかよ!!」
だって純粋に気持ち悪いじゃない!
はあ・・・もう、疲れたわ。
『私の身体で変な事したら、怒るわよ』
「へいへい」
『で、その人は何処に居るのよ』
「この部屋の隣の隣だ」
そんなに近くだったの!? でも、ちょっと待って。
『私の身体を借りても、誰も貴方が憑いてるなんて、信じないわよ』
「大丈夫。あいつなら解ってくれるさ」
随分自信満々に言うけど、大丈夫なのかしら。その人がホラー好きのターナのような人なら、
話が早いのだろうけど。
ザレオは部屋を出て、隣の隣の部屋に行き、ベルを鳴らした。
「はいよ、どちら?」
そしてすぐに、見るからに陽気そうな男性が出た。
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