第6話

 それからしばらくの間、ザレオはまったく私に話し掛けなくなった。今はもう『居る』という事し
か感じない。
 こちらから声をかけるのも、何だか気まずくて出来なかった。
 頭の中が静かなのに、どうして気分がこう落ち着かないのかしら・・・。
 そんな日々が続いたある日、私はふと疑問に思った。
「ねえ、どうして私に無理矢理やらせようとしないの? 身体を乗っ取るチャンスは、いくらでも 
あったはずよ」
 自分しか居ない自室で、私はそう尋ねる。親が見たらどう思うかしら。
 ザレオは姿を見せずに返して来た。良かった。内心、無視されるかと思っていた。
『無理強いは趣味じゃない』
「脅して私に憑いたくせに・・・」
 しかもポルターガイストまで起こして。
『悪かったな。焦ってたんだよ、あの時は』
 自分のマイナスになるような事まで、暴露しなくていいのに・・・。
 決まり悪そうに答えたザレオに、私は思わず笑ってしまった。
 ザレオって、本当に解らない。強引でガサツかと思えば、意外と気を遣っている面もある。
「じゃあ、もう一つ。その刑事に、どうして憑かなかったの? その方が手っ取り早くない?」
 ザレオの雰囲気が変わった。
 怒りのような・・・哀しみのような・・・複雑な感情が流れ込んで来る。
『それじゃあ、駄目なんだ』
「どうして?」
『乗っ取っただけじゃあ、殺された被害者の恐怖心は、半分も野郎に伝わらない』
 ゾクリと背筋が冷えた。今・・・ザレオは私の後ろに立っている。見なくても解る。
『罪滅ぼしなんて生易しい事はやらせない。被害者が味わった恐怖と苦痛を、倍にして野郎に
返す』
 ザレオの怖い言葉に、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
 全身に寒気を感じ、私は身震いを起こした。
 ザレオは私の心情を察したのか、口調を和らげた。
『そうでもしないと、皆浮かばれないんだ。俺もこうなって、改めて死んだ奴の気持ちが解った』
「・・・・・・」
 何だか、酷く切ない気持ちになった。
 私も、あの時ザレオに助けられず、辱められて殺されてたら・・・・・・


 嫌・・・!


 私は堅く目をつぶって、両腕を抱き抱えた。
『・・・巻き込んじまったのは、心底悪いと思ってる』
「今更よ。それに、貴方と会わなかったら、私とターナに今は無かったわ」
 私も心底からザレオに感謝している。本当にね。私だけじゃなく、ターナまで助けてくれたんだ
から。
 私は、ザレオが本気で被害者を救いたいと思っている事と、私に対して罪悪感を感じている
事を知った。
 そしてザレオは、私がザレオに感謝している事と、被害者の気持ちを理解した事を知った。
 私はようやくザレオの顔を見た。ザレオは苦笑いを浮かべている。多分、照れているんだと
思う。私もつられて微笑った。
 お互いの気持ちが初めて解り合って、私達は一皮剥けたみたい。
 まだ私の心は少し複雑だけど・・・ザレオに協力したいと思ってる。
『じゃあ、早速決行と行くか』
「ええ!?」
『協力するっつったろ?』
「なっ、そ、それは・・・。ひ、人が思っている事を、読まないでくれる!?」
 ザレオ曰く、身体を共有している以上、それは仕方ないとか。
 やっぱり貴方って・・・本ッ当に図々しいわ!!


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