第4話

 それから三日後。私はターナと約束していた映画を見に行った。
 シアターから出ると、夏の強い陽射しが目を刺激した。私はちょっと帽子を目深にかぶった。
「あー面白かった! アジアの幽霊役って、長い黒髪の女性でワンパだけど、やっぱり怖いわ
 ねー」
 ターナはさっき見たホラー映画に、大分興奮気味。私は幽霊に憑かれたままホラー映画を見
て、大分疲労気味・・・。
 何にしたって、ザレオがうるさいんだから。
 アジアの女性はベビーフェイスだとか、あんな腐敗してない死体があるか、とか。そこまでリア
ルにした映画なんて、放映されないわよ。
 その後、私達は夕方まで遊び、最後にクラブに行って踊った。
 せっかくの夏休みだもの。楽しまなきゃ損だわ。
 というより、少しでもザレオの存在を忘れていたいのが本音・・・。


 夜。踊ってすっきりしたところで、私達は帰宅した。
「ケイディ〜、今日泊めて〜」
「またあ? もう、お酒もほどほどにしなさいよねえ」
 二人ともほろ酔い気分で道を歩いていると、私達の前の道を三人の男が現れて塞いだ。
 一気に酔いが覚める。すぐさま来た道を戻ろうとしたけど、そっちにも二人の男が。
「ケイ・・・」
 ターナが私の腕にしがみつく。私も全身の血の気が引いた。
 男達はニヤニヤと笑いながら。私達に迫って来る。
 今動いたら捕まる。でも、このままでも・・・!
 そう思った瞬間、目の前が真っ暗になった。
 真っ暗なのに、頭にTVの映像のように、さっきの情景が視える。どういう事なの!?
「ケ、ケイディ」
 ターナの声も聞こえるわ。ターナ、逃げて!!
「心配するな。さっさと片付けてやるよ」
 何・・・? 私の声? 私、何も言ってないわ! 何が起きてるの!?
『お前の身体、ちょいと借りるぞ』
 ザレオ!? まさかあんた、私の身体を・・・!?
 私の身体が動いた。そして、前に居る男の顔を蹴り上げた。
「ぐあっ!?」
 怖いくらい綺麗に私、ううん、ザレオの蹴りが男の顔に決まった。男は鼻でも折れたのか、鼻
血がボタボタと垂れている。
「なっ、このアマ!」
 あ、相手を逆上させてどうするのよ!? ほら、いっせいに襲い掛かって来たじゃない!!
 ザレオの声が頭に響いた。
『いいから、黙ってろ』
 何ですって? ちょっと、私の身体なのよ!?
 男達はナイフを取り出した。小さいけど、傷付けるには充分だわ。ターナに怪我をさせたら、
許さないわよ!
「お前らさ、女二人に五人がかりってどうなんだ。みっともねえな」
 ザレオが軽蔑をこめて言い放った。
 男の一人が斬り掛かって来た。ザレオは難無く躱し、男の腕を掴むと足を払って地面に押し
付け、腕を変な方向に曲げた。
 ゴキリ、と嫌な音がして男の絶叫が上がる。私は反射的に目をつぶるが、頭には情景が浮か
んだままだった。
 かなりキツイわ・・・。昼に見たホラー映画が、生易しく思えて来た。
 ザレオは別の男の手を殴って弾き、ジャンプして相手の顔面を踏み付け、綺麗に宙を後転し
た。
 ・・・て、ちょっと! 私ミニなんだから、派手に脚を振り上げたり飛んだりしないでよ!
「あー、うるせー」
 私の声で男言葉を使うのもやめてよね!


 最後の一人が倒れた。男達は骨が折れたりして、呻き声を上げてうずくまっている。
 ハッと気が付くと、私は元の状態に戻っていた。
 自分の身体をまじまじと見つめているところへ、ターナがガバッと抱き着いて来た。
「ケイったら凄い格好いい! いつあんなの覚えたの!?」
「さ、さあ・・・いつかしらね・・・」
 ただザレオの陽気な笑い声が、頭に響いていた・・・。
 その後、ターナは私の家に泊まり(あんな事があったしね)、二人でなるべく夜遊びはしないよ
う心掛けた。


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