第5話

 朝方にターナは自宅に帰って行った。私も目覚ましのシャワーを浴びる。
 シャワーの時、本当にザレオは私から離れていた。でも、気配はする。
「・・・・・・」
 そういえば、昨夜のお礼をちゃんと言ってない。
 バスルームを出て、キッチンに行くと、ザレオがテーブルに着いていた。
 よお、とザレオは陽気に手を振った。私はぎこちなく頷いた。
 私はコップを二つ取り出し、片方にジュース、もう片方にビールを注いだ。
 ビールが入ったコップを、無言でザレオの前に置いた。
『どういう風の吹き回しだい?』
「べ、別に。昨夜のお礼よ」
 意味深に笑うザレオから目をそらし、自分のコップを持ってリビングに行った。
『ありがとな、ケイ』
「ちょっと、馴れ馴れしく呼ばないでよ。そこまで気を許した覚えは無いわ」
 失敗した。昨日ザレオに助けてもらったって言うのに。
 ・・・私って、どうしてこうなのだろう。
 それでも、ザレオはニヤニヤ笑っていた。これじゃあ、私が子供みたいだわ。
「そ、そういえば、昨日の人達はあのままで良かったの?」
 無理に話題を変えた。
 ザレオは、ああと気の抜けた声を漏らした。
『あいつらのやり方は手慣れていた。警察の要注意人物のリストにも、載っているだろうよ。    
あちこちの関節を外したし、凶器もそのまま。病院に送られた後、警察に連行されるだろ』
 そういうものなのかしら。
 ま・・・私も面倒事に巻き込まれたくないわ。警察に届けを出しても、私があの人達を痛い目
に遭わせたなんて、信じないだろうし。
『そんな感じで、刑事の件も頼むわ』
 さらりと言ったザレオの言葉に、私は少し遅れて反応した。
「待ってよ、冗談でしょ!?」
 振り返って見たザレオの顔は、真面目そのものだった。
 ザレオは呆れた声で返して来た。
『おいおい、何のために俺がお前に憑いたと思ってるんだ?』
 実を言えば、少し忘れていた。
「だけど、私っ・・・」
『昨夜の件で、ちったあ被害者の気持ちが解ったと思ったんだがな』
 私は言葉に詰まった。そして、ザレオは音も無く消えてしまった。
「あっ・・・」
「ケイ、起きてたの?」
「ママっ」
 ママはテーブルに置かれた、ビールが入ったコップを怪訝な顔で見た。
「ケイディ、少しは夜遊びとお酒を控えなさいね」
「・・・うん」
 頭の隅で、ザレオのわずかな怒りと哀しみを感じた。


 ザレオの気持ちも、被害者の気持ちも、解らないでもない。
 ただ・・・怖い。
 自分の意志でないとは言え、私の手で相手をどうにかする。それが酷く怖い。
 TVでは、また強姦殺人事件の事を取り上げられていた。
 そんな時、私はザレオの静かな怒りを感じていた。
「最近物騒ねえ。気を付けなさい、ケイ」
「・・・・・・」
 私がもう似たような目に遭った事を知ったら、ママは何て思うだろう…。


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