第1話
私は15歳の時に、普通の人には見えない存在が見えるようになってしまった。
それは21歳になった今でも変わらない。
初めは怖かったし、気持ちも悪かったけど、もう慣れた。
その・・・幽霊とやらの存在に。
見えていても日常には何の支障も無いので、私は平凡に大学生活をエンジョイしていた。
少なくとも、今年の夏までは・・・・・・。
『GHOST』
カレッジは明日から夏休みに入る。生徒は皆浮かれていた。勿論、私もその一人。
「ケイディ、夏休みは何処か旅行に行く?」
彼女は友達のターナ・ジルバン。とても可愛い顔をしてるけど、大のホラー好き。ちなみに、
彼女には私のような霊感は無い。
「まだ予定は出来てないわ。どうして?」
「実はね、夏休みにアジアのホラー映画が公開するの! すっごく怖いらしいのよ。一緒に行
かない? 皆嫌がって、来てくれないのよ・・・」
私だって嫌よ・・・。
映画のホラーは現実のに比べれば、大した事はない。でも時々、映画に『本物』が居る時があ
る。私はそれが嫌だった。
「え、ええ・・・。いいわよ」
半分以上は興味本位、後は友情。私はぎこちなく返事を返した。
「やったぁ! サンキュー、ケイ」
ターナは本当に嬉しそうだった。
そんな彼女のはしゃぎ様に苦笑し、私は髪を整えようと洗面所に立った。
ポーチからクシを出して顔を上げると、鏡に映った私の後ろに、いつの間にか目付きの悪い
男が立っていた。
「きゃあああっ!?」
『アレ』だと解る前に、私は反射的に悲鳴を上げ、腰まで抜かしてしまった。
ターナは腰を抜かせてしまった私の両肩を掴み、結構激しく揺すった。
「ケイディ? ケイ! どうしたのよ、突然」
私は我に返ってターナを見る。そして恐々と鏡を見た。
鏡に映っていた男は…居ない。
「あ・・・何でもないわ。ほら、その・・・ゴ、ゴキブリよ」
「えっ、やだ、本当!?」
ターナは嫌悪感を露にして、足元を見回した。
私は深呼吸をして、鏡をもう一度見た。男はやっぱり映っていない。
間違い無くさっきの男は『アレ』だ、幽霊。不意打ちはいつもの事だけど、女子トイレに出て来
なくてもいいじゃない。痴漢かと思ったわ。
ターナは私に霊感がある事を知らない。小さい頃ママに話したら、物凄く気味悪がれて以来、
この事を他言にするのはやめた。
「ターナ、行こう」
まだ足元を警戒しているターナを引っ張り、私は急いでトイレを出た。
何だか、寒気がするわ・・・。
寒気は学校から帰っても、まだ続いていた。身体の内側から、ゾクゾクする感じ。
それでも別に涼しい訳ではなく、汗はしっかりかいている。
「ただいま」
「お帰り」
ママはパソコンから少しだけ目を離して私に言った。最近、チャットにはまっているらしい。ま
た夢中になって、夜中までやらないといいんだけど。
「シャワー、浴びるね」
ママにそう言って、自分の部屋に荷物を置くと、すぐにバスルームに入った。何にしても全身
にかいた汗が気持ち悪い。
バスルームの鏡は、とても見られなかった。また男が映っていたら、と思うと・・・。
もう考えるのはよそう。せっかく明日から夏休みなのだから。
まだ纏わり付く寒気を無視し、熱いシャワーを頭から被った。
夜も更けて、ふと時計を見たら次の日になっていた。もう寒気はしない。
読みかけの本に枝折りをはさみ、スタンドの明かりを消して、私はようやく寝に入った。
昼間の幽霊には参ったけど、何事も無く一日が終わって何よりだわ。
明日から始まる夏休みに、自然と口元に笑みが浮かんだ。
でも、寝返りをうって仰向けになった時、何とも言えない嫌な感じがした。
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