Organization of Police

 警察機構にも、様々な課が存在している。
 中でもナーブサ警察機構は、黒ミサ関連の事件を扱っている機構の本部になる場所だ。
 チャペルと協同する事はしばしあるが、両組織に様々な異なる点があるが故、仲たがいが
絶えないのが事実である。





                              





 レオは、約二ヶ月ぶりにナーブサ警察機構に戻って来ていた。
 総本部への、ネオ及び『エボス』の情報提出が無事に済み、一先ずホッとした。
 何よりも、実兄が本部を留守にしていたのが幸いだった。兄に捕まったから、いつ此処に
戻れるか解らない。
「(ナサニエルは元気で・・・やっているだろうな)」
 心配するだけ無駄だろう。
 今はナットと名乗っている自分の親友。その破天荒な性格で、今日も何処かで騒ぎを起こし
ているに違いない。
「あ、少佐! お久しぶり、元気でした?」
「やあ、メーア」
 陽気にレオに声をかけて来たのは、メーア・セウン大尉だった。
 彼女は女性でありながら、男性陣に負けない活躍ぶりで、此処まで上り詰めた人物だ。
 レオは彼女を評価しているが、その若さと女性である故か、メーアの実力を認めようとしない
上官も少なくない。
 メーアは額に手を添え、キョロキョロと辺りを見回した。
「あれ? 補佐官くんは、一緒じゃないのですか?」
「シールなら資料室に行ってるよ」
「そうですか。ねえ少佐、あまり大きな声で言えないんですけど、昇進なさらないの? 少佐の
実力なら、すぐに昇格出来ますのに」
 メーアは現中佐が好きになれない。それはレオも同じだった。
 今の中佐は、いわゆる職務怠慢な性格の持ち主なのだ。事件と来れば、すぐに下を動かし、
自分は高見の見物をする。そして、手柄はすべて一人占めであった。
 特に自分より有能な人間を見れば、そのうわべだけの地位を利用してとことん蹴落とし、
あげくメーアに対しては意見を聞こうともしない。
 何か気に食わない事があれば、すぐに地位をもって脅迫する。
 よくもまあそんな人間が警察機構に居るものだ、とレオは何度も思った。
「私は、今のままで充分だ」
 メーアの問いに、レオはやんわりと答えた。
 実際、地位が高すぎると今までのように行動が出来なくなる。
 職務も大事だが、友人の助けになりたい気持ちの方が大きかった。
 メーアは心底がっかりした溜め息を漏らした。
「少佐は無欲ですね。そこが好きですけど」
「それは光栄だな」
「フフッ。じゃあ少佐、また」
「ああ」
 メーアは元気よくレオに手を振りながら、自室へ戻って行った。子供のような性格だが、先も
言ったように、彼女は現場では男に負けない気迫の持ち主だ。
 レオも自室に戻った。早いところ、たまった書類を処理して、セルネニアに向かいたかった。
 クレイズ大司教の話では、今週中にナット達が戻って来るらしい。
 早く彼らに会い。その一心であった。
「(もっとも、あいつは嫌がるだろうがな・・・)」
 ナットはそういう男だ。いまだに自分を邪険にするのは憎たらしいが、嫌いにはなれない。
 これも腐れ縁である所為だろうか?
 自室に着いた。シールはまだ戻っていなかった。
 レオはデスクに着き、引き出しの書類に目を通し、ペンを走らせた。
 しばらく仕事を続けていると、ドアがノックされた。多分シールだろう。
「どうぞ」
「失礼するよ、ライオネルくん」
「ソ、ソワ大佐っ」
 レオは慌てて立ち上がり、敬礼した。
 ナーブサ警察機構責任者、ヤデン・ソワ大佐は、まるで懐かしい友人にでも会ったように、
両手を軽く広げてレオに笑顔を向けた。
「久しぶりだね。君が戻ったと聞いたからさ」
「御用でしたら、私がそちらに参りました。わざわざ大佐自ら・・・」
「いいの、いいの」
 ソワは気さくに手を振り、レオに近づいた。
 レオはソワに席を勧め、お茶の用意をしようとしたが、ソワは丁重に断った。
「聞いたよ、黒ミサ組織の事。よく情報を得たね」
「はい。チャペルの協力のお陰です」
「チャペルかあ。そういえば、君の知り合いがそこに居るんだっけ」
「・・・昔の事です」
 レオは苦笑しながら言った。
 ナットの事を話す訳には行かない。例え相手が上司であっても。
「ま、今後の活躍に期待してるよ。それから、シールくんに手が空いたらでいいから、後で僕の
ところへ来るように言ってくれないかな」
「シールですか? ・・・彼が何かしましたか?」
「嫌だな、違うよ。シールくんの頭脳を、ちょっと借りたいと思ってね。彼の推理力と洞察力は、
君も知っているだろう?」
「ええ、まあ・・・」
 じゃあ頼んだよ、と言って、ソワは部屋から出て行った。
 用件はそれだけで、何だか拍子抜けであった。
 何にしても、自分が引き抜いて補佐にしたシールが、大佐が必要としているのは名誉と言う
べきか。
 レオは気を取り直して、再びデスクに着いた。