どりーむ編

 西の国はいたって平和です。
 アルズ王子は自分が大人になった時の事を、ひっそりと夢見ていました。
 こんな風になったらな、と思う時期が誰だってありますよね。

「ねえねえジュナール。僕さ、大人になったら、どんな王様になってるかな」
「今と大して変わらない気がします。むしろ変わるものですか決して
「失礼な言い草の上に何を根拠にそんな断言すんの!!?」
「これまでの若の生態データを基に、未来の若をわたくしの明晰な頭脳でシミュレートしまして
その結果」
「もういい。もういいよ解った」
 アルズは片手を挙げて、ジュナールにストップを求めました。
 王様かあ、とアルズは机に両手で頬杖をついて呟きました。
「きっとお仕事とか大変なんだろうなー。今みたいに遊んでられないだろぉーしぃー」
「いえ、絶対遊んでいますね」
「マジで!?」
「はい。しかし若、あまり嬉しそうに言うのはお止め下さい。拳がうずくので
「冷静な顔して怖いなヲイ!!!」
「まあそれはそうとして、若はどのような国王になりたいのです?」
 ジュナールの問いかけに、うーんとアルズは声を漏らしました。
「これだ! ってゆーのは浮かばないんでよね。でもとりあえず、パパのようにはなりたくない
かも・・・」
「賢明ですね」
 珍しく二人の意見が一致しました。
 一体、現王はどのような有様なのでしょうか。
 アルズは未来の自分の姿を思い浮かべながら、そうだなあ、と声を漏らしました。
「皆から慕われて、尊敬されて、でもって有能で、格好良くてー」
「はっ」
「今あからさまに嘲笑っただろテメエエエッ!!! 悪い
か!? 子供が夢見ちゃ悪いのかあああ!!?」
 アルズは顔を真っ赤にしてジュナールに食って掛かりました。
 しかし、ジュナールは厳しくメガネを光らせます。
「最後の格好良さは整形で何とかなるでしょう」
「待てコラちょっぴり美形教育係!!!」
 それは、けなしているのでしょうか?
「が、前者より三つの項目は努力次第で実現出来るでしょう」
「えっ、本当!?」
「ええ。お勉強さえ死ぬほどやれば」
「あ、それから僕ね、お嫁さんが欲しー!」
 アルズは字体まで変えて精一杯子供らしさをアピールし、勉強から話題を遠ざけようとしま
した。超必死です。
ませガキが。それならば、若が即位すれば、嫌でも候補者が上がるでしょう」
「そっかあ。何だか大変失礼な暴言も聞こえた気が
「幻聴でしょう」
 メガネの奥から鋭くジュナールに見つめられ、アルズはぐっと言葉を詰まらせました。どうにも
その眼光が苦手のようです。
「若はどのような花嫁を希望で? 今のうちに決めておいた方が、こちらとしても候補者を選び
やすいので」
 これは本音ですが、その中には超興味本位の文字が隠されているのでした。
「何か問題でも?」
 いえ別に。すみませんでした。
「ジュナール、誰と喋ってるんだよ」
「お気になさらず。それで、如何なものなのです? 断っておきますが、わたくしのような寛大で
知性あふれる超絶美形な方は、そうそう居ないかと」
サラッと自慢が出たよこの人!! って己の何処が寛大じゃああッッ!!! 
すぐに手を挙げるし怖いしパパを脅してるし!!!!
「失礼な、何を根拠に」
「今までのシリーズ読めばあからさまなんだよ!!」
「それは若の読解力が無いからそう読めるのですよ。さあさ、話が進まないので早くおっしゃっ
て下さい。舌引っこ抜きますよ
「だからさ、ほら、その台詞がもうアレなんだよって!! うっ・・・露骨にヤットコをスタンバイし
てるし・・・。え、ええとねぇ〜、好みとしては超優しくて、可愛くて、ほんの少しだけ強いヒトかな
あ」
 アルズは照れながら後ろ首を掻き、『超』と『ほんの少し』を強調させました。ジュナールは
しっかりとアルズの言葉をメモに書き記しました。
 意外と注文が少ない事に、ちょっぴり驚きました。しかしまあ、相手はアルズです。数年後
(もしくは数日後)には注文が増えているか、または覚えていないだろう、とジュナールは目論
見ました。
「覚えてるよ!!」
「おや、それは楽しみですね」
「くっっ! 心底馬鹿にしやがって・・・!!」
 と、そんな未来を夢見たある日の事でした。



「そんな日もありましたね、陛下。まさにティル様はぴったりなのでは?」
 アルズ国王陛下の誕生日パーティー後。あれから瞬く間に時は過ぎ、アルズも今では立派
(?)な国王となっていました。
 ちなみにティル嬢については、『でーと編』をご覧下さい。
「ああ、うん、いやその、ティルは可愛いし、イイ子だとは思うんだけど・・・」
「煮え切らない方ですね。漬けますよ
何に!? だ、だってさ、何か、『無茶苦茶』強そうだし・・・。ほら、得意技は回し蹴り
か言ってたしさ。僕の好みは『ほんの少し』強いであって、何も肉体的ではなく心の持ち方
が・・・」
「ガタガタ文句を抜かさないで下さい。わたくしのメモにはしっかりとこう書かれてありますよ」
 ジュナールはメモをアルズに差し出しました。
 そこには達筆な字でしっかりと、


 若の好みの女性:超優しい。可愛い。    強い。


「『強い』の前に不自然な空白が出来てるしーーーッ!!!
消した跡っぽいのが・・・しかも今し方! テメェ捏造してん
じゃねえか腹黒大臣ンンンッッ!!!」
「言葉遣いが最ッ悪ですよ、陛下。今夜という今夜は、仕置きが必要ですね」
「え、あ、ひ・・・ひぎゃああああっっっ!!!



 と、こんな未来の悪夢が待ち構えている事など、当時のアルズ王子は夢にも思っていません
でした。
「・・・・・・え?」

 西の国はいたって平和です。
 アルズは立派な王様となるため、今日も勉強に励むのでした。
                                         おわり