おたんじょうび編
西の国はいたって平和です。
今宵は、アルズ国王の誕生日パーティーがお城で開かれるのでした。
メイド達に着飾られ、アルズはパーティー前からグッタリしていました。
何せ、まともにマントを羽織るのも戴冠式以来。普段は短めで軽い生地のものを羽織って
いるのですが、今宵は違います。何と言ってもパーティー。それはもう上質で、かなり長めの
マントをキチッと羽織っていました。
「お、重い・・・。何このマント、重・・・」
肩がこりそうだ、とアルズは分厚いマントに溜め息をつきました。
問題はマントだけではなく、他にも様々な装飾品が身につけられ、普段そんな物にまったく
縁が無いアルズにとっては、少々邪魔な存在でした。
「んー、指輪とか要らなくない?」
と、メイドに言っても、彼女達は断固として譲りませんでした。
「うう。絶対にナイフとかフォークとかが当たって、掴みにくくなるのに〜」
「致し方がないでしょう。これも国王としての身だしなみですよ、陛下」
そこへ、大臣のジュナールが顔を出しました。
ジュナールは見事に着飾られたアルズを見て、満足そうに頷きました。
「素晴らしいいでたちです、陛下。まるで国王みたいです」
「喧嘩売ってるのかゴルアッ!!?」
アルズは持っている杖を振り回して怒鳴りました。その姿はまるで、というか、子供その
ものでした。
「言葉遣いが悪いですよ、陛下。一つ老けるのですから、少しは慎みをお持ち下さい」
「老けって・・・そんな言い方するなよ!!」
「事実です」
「畜生ーーーッ! 大体、お前こそ今年でいくつになるんだよ!? 僕の幼少時代から全ッ然
変わらない顔立ちをいつまでもしてて!!」
「陛下よりは年上、それで充分だと思いますが?」
「うっ」
ジュナールのメガネが怪しく光ったので、身の危険を感じたアルズは口を閉ざしました。
「(あ、危うくデンジャーゾーンに足を踏み入れるところだった・・・)」
「陛下、そろそろ参りましょう。時間が来ています」
「う、うん」
ぶみっ。
ゴチン!
「陛下、大丈夫ですか?」
「いいからマントから足を退けろよフェロモンばらまき腹黒
大臣!!!」
「失敬な。誰が身の毛もよだつような美貌の持ち主だと?」
「言っとらんわいボケェッ!!」
そんなこんなで、パーティー会場。
会場に入って来たアルズが集まってくれた人達に言った言葉は、
「あー・・・まあ、適当に楽しんでて」
・・・でした。
これは後の話ですが、会場に居た人達は酒が起こした錯覚ではないかと語りました。アルズがそう言った瞬間、
傍に控えていた大臣がアルズ目掛けてボディーブローをかましたように見えた、と。
挨拶もとりあえず終わり、皆はそれぞれ適当に楽しみ出しました。
「痛い・・・普通に痛い・・・。こんな公の場で技をかけなくても・・・」
「こんな公の場で、馬鹿をしなくてもよろしいでしょう? 陛下」
「馬鹿とは何だ! 僕は大真面目で言ったんだぞ!?」
「余計にタチが悪いです」
「フンッ。もういい。やけ食いしてくる」
「お待ち下さい」
「グヴォッ!!?」
その時、アルズは一瞬だけ綺麗な小川を見たそうです。
「マ、マントを踏むな! 普通に呼び止めてよ!!」
「陛下、お客様です」
「また普通に流したよ、このメガネ大臣」
ジュナールが手で示した方を見ると、それはまあ可愛らしい女性が居ました。
お客と言うから、またムサイ貴族を予想していたアルズでしたが、思いもよらない展開に
吃驚な様子でした。
「顔が気色悪いですよ、陛下。引き締めて下さい」
「少しは微笑ましく注意出来んのかおのれわーーーッッ!!?」
と、思わずいつものノリで言った後、アルズは後悔しました。ハッとして女性の方を見ました
が、彼女は面白そうにクスリと微笑っただけでした。
「あ、あの」
「初めまして、陛下。私は陛下のお父上の叔母の弟の孫の夫の隣に住む貴族の従姉妹に
あたる者です。ティルと申します」
「はあ・・・(他人、だよな?)」
思いっきり他人ですが、ティルが可愛いのは確かです。ぶっちゃけアルズは彼女の身元
など、どうでも良くなりました。
気を利かしたジュナールは、アルズの肩を軽く叩き、小声で言いました。
「陛下、あちらのテラスへお連れしたら如何です?」
「マジで!?」
「滅多に女性からお声が掛からない陛下の、またと無いチャンスです。ご安心を。陛下達に
近づく者は、このジュナールが滅します」
「微妙にムカつく発言に、かなり怖い発言が聞こえたけど・・・。うん、まあ、ちょっと話して来ま
す」
アルズは少し照れながら、ジュナールの心遣いに感謝し、ティルを誘いました。
「ええっと、ティル、さん? こっちで話とかしませんか?」
「はい、喜んで」
ぶみっ。
ガツンッ!
「き、きゃーーーッッ!? 陛下! わ、私ったら・・・申し訳ありません!!」
「ご安心を、ティル様。陛下が何も無い所で転んだだけです。断じて貴女様がマントを
踏んづけて転ばせた訳ではありません」
「で、でも・・・」
「でしょう? 陛下」
「そうだともっ。気にしなくていいのですよ、痛いのはいつもの事ですから!」
「でも血が・・・」
「いつもの事です!」
有り得ないでしょう、普通に。
「そ、そうですか?」
「そうです。さっ、行きましょっか。あ、ティルさん、お先に」
「あ・・・はい、失礼します」
こうして二人はテラスの方へと行きました。ティルの後に続くアルズの足取りはフラフラでした
が、ジュナールはそのまま見送りました。
「(陛下、ご武運を・・・。そして上手くご良縁となり、わたくしの育児日記の糧と
なって下さい)」 ※育児日記については、『ジュナールの育児日記』をご覧下さい。
さて、これからアルズとティルはどうなるのでしょうか。
次回に続くのでした。
「続いちゃうのコレ!?」
「どうしました? 陛下」
「あっ、いや・・・な、何でもないですよ、ティルさん」
つづく
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