びょうき編

 西の国はいたって平和です。
 国は平和ですが、お城ではちょっとした騒動が起きていました。

「ぐる゛じ〜い゛、ぐる゛じ〜い゛・・・」
 アルズはとてもうなされていました。実は、風邪を引いてしまったのです。
 顔を真っ赤にし、額に氷袋を乗せて、酷い咳をしていました。
「大丈夫ですか、若。わたくしに感染させましたら、ただじゃおきませんよ」
「心配してるのかよそれ!!? むしろ自分の心配じゃゴホゴホッ!!」
 まさに、血反吐でも吐くのではないかと思われるような咳です。
 これにはジュナールも不安になりました。
「若、おいたわしい・・・」
「感染らんように部屋の隅っこでそんな言葉かけられても
嬉しくないわああッッ!!!」
「言葉遣いが悪いですよ、若。風邪が悪化しますよ」
「だ、誰の所為・・・ゲホゲホ!! ま、マジで死ぬ゛・・・」
 お医者様にも診てもらいましたが、薬を飲んで安静にする他は無いようです。
 しかし、アルズは薬が苦くて嫌だのと腹立たしい事を言って、薬を飲もうとしませんでした。
「若、お薬をお飲み下さい」
「にがいから・・・ヤダ・・・絶対ヤダ・・・」
 ゼエゼエと息を切らせながらも、アルズはそれだけはキチッと言いました。
「仕方ありませんね・・・」
 ジュナールは溜め息をつきながら、ようやくアルズの枕元にやって来ました。
「若、最期に召し上がりたいものは何ですか?」
「僕死んじゃうの!!??」
「ええ。薬を飲まなければ」
「全国のちびっ子達もドッキリしちゃうだろ!!!」
「飲まないのが悪いのですよ」
邪悪すぎだよ!!! うっ、ゲホゲホッ!!!
 ジュナールはアルズの汗を冷たいタオルで拭ってあげました。ひんやりとした感触が気持ち
良く、アルズは目を閉じました。
「臨終しましたか、若? 火葬と土葬、どちらがよろしいですか?」
「少しは穏やかな言葉がかけられんのかあああ!!? 
病人なんだぞ!? ちったぁいたわれ!!」
「その罵声を聞く限りは、まだまだ元気そうですが」
つ・・・辛いんだよ、これでも・・・くそ〜っ。オッサンみたいな声になった
じゃないか〜〜〜ッ
 段々とアルズの声はガラガラの酷い声になって行きました。
「いい加減、お薬をお飲み下さい。声が出なくなりますよ」
う〜〜〜。アイス、食べたい・・・
しばいたろか。解りました。少しお待ち下さい」
「今何かボソって言った!?」
 ジュナールはアルズのためにアイスを持って来てあげました。
 アルズはジュナールの手を借りて上半身だけを起こし、大きなクッションにもたれて、ジュナ
ールからアイスを食べさせてもらいました。
「あーーー冷たくて美味しーーー」
「それは良かった。どうぞ」
「あーん・・・ん? 何か、苦味が・・・。ハッ!? まさか薬 in アイス!!?
「・・・・・・とんでもありません」
間が長いよ君!! うげ〜ッ。不味〜ッ」
「若のために此処まで考慮したのですよ? 有り難く全部食べて下さい」
「恩着せがましいよ!?」
「大体、若がこのまま元気にならなかったら、わたくしが困ります」
「えっ・・・?」
「貴方は次期国王となられるのですよ。その姿をわたくしに見せて下さい」
「う・・・うん・・・」
「でないと楽しみがありませんから」
「楽しみって何だよ!!!??」
 それはもう少し先のお話・・・。
「しかし、良かったですね、若」
「な、何が?」
「馬鹿は風邪をひかないそうです」
「だから何だよチクショーーーッッ!!!」

 アルズは薬を飲んだので(飲まされたとも言う)、翌日にはすっかり元気になりました。
「若、お勉強の時間です」
「あ・・・何か熱っぽい・・・」
「氷漬けにして冷やして差し上げましょうか?」
「スミマセン」

 西の国はいたって平和です。
 アルズは立派な王様となるため、今日も勉強に励むのでした。
                                                おわり