ジュナールの育児日記
※王子時代の「アルバム編」を読んでから、これを読む事をお勧めします。
「あれ。ジュナール、何それ」
「これですか? これは陛下の観察にっ・・・育児日記です」
「今何か言ったでしょ!? 人をヘチマかアサガオかなんかに!!」
「わたくしが書き記したものですが、ご覧になりますか?」
「しかも流された! まあいいや、いつもの事だし。見せてー」
●月×日
若君が産まれたので、早速国王の弱みに付け込んで育児を務めさせてもらう事に
した。
国王が泣きすがったので、仕方なく育児の中で一番重要な時期の間だけ、育児係を
する事となった。
「出だしから怖ァーーーッッ!!! 人様の父親に何してんだよアンタ!!
しかも赤ん坊の僕が危険にさらされとるよ!! 命がけで護れよ親父!!」
「人聞きが悪いですよ。誰が他人の弱みに付け込んで、まだいたいけな赤子で遊ぶというので
すか」
「此処にそう書き記されてるんだよ!!」
●月△日
若君はアルズと名づけられた。食欲が旺盛でデブい。サルっぽい顔をしている。
「失礼だなヲイ!! 産まれたばかりの赤ん坊は皆そうなんだよ! デブいしサルっ
ぽいし!」
「陛下はとりわけそうでしたから」
「ズバッて言い放ったよこの大臣! てゆーかこれ育児と言うより、本当に観察だけじゃない
か!!」
●月■日
若にメガネを取られた。明日からはメガネ無しで行く事にしよう。
絞めといた。
「誰を!!? 僕をか!? 僕をなのか!?」
「・・・・・・」
「黙秘するなよ!!」
●月▲日
若に髪を引っ張られた。今度は髪を束ねなければ。
何本か抜けたので吊るしておいた。
「だから誰をなんだよ!!? 吊るしたのって髪!? or 僕!?」
「・・・・・・」
「黙るなよ怖いから!!!」
▲月○日
若をお風呂に入れたら異常に暴れた。嫌がる様子も無く、逆に楽しんでいるよう
だった。
しかし身体をろくに洗えなかったので、少しの間眠ってもらった。
楽だったので、今後はこの方針で行こうと思う。
「何をして眠らせたの!!?」
「育児延髄チョップを少々」
「行くなよそんな方針!!」
▲月×日
若はとにかく活発なので、その分よく眠った。
揺りかごよりも、わたくしの腕の中で永眠する事が多い。心地が良いと思われるのも
悪くはない。
寝ている時だけは可愛いと思えた。
「永眠て何だよ!! 死んでんじゃん僕! 安眠て書くだろフツー!!」
「おや、わたくしとした事が。誤字ですか」
「照れるな!! しかも寝ている時だけ可愛いとは何だド畜生ォーーーッッ!!」
「言葉遣いが悪いですよ、陛下。本当に永眠しますか?」
「スミマセン、遠慮します」
アルズはパラパラとページをめくって行きました。
自分にこんな時代があったのかと、何度も感嘆の声を漏らしながら、アルズは育児日記を
読みました。
「ジュナールはさ、僕が1歳になるまで面倒を看てくれたんだよね」
「はい、そういう約束でしたから。陛下をご両親の元に返す時は、それはもう大変でした。わたく
しの髪という髪を掴み、服をも掴んで離さず、延々と泣き続けていましたから」
「お、覚えてないよ! そんな事っ」
アルズは顔を少し赤らめて言いました。
「ええ、そうでしょう。あまりにも言う事を聞かないものですから、育児ファイナルアタックを食ら
わせて落ち着かせましたから」
「1歳児にしかも親の目の前で大技をかけるなああッッ!!! 少しは良い話
で終わらせようとか思わないのかよ!!?」
「充分に微笑ましい話ではないですか」
「十二分に恐ろしい話だよ!! あれ? まだページがある・・・」
■月○日
若はご成長し、教育係をつける年となった。これを機にまたしても国王の弱みに付け
込み、若の教育係に任命する事が出来た。
「また弱みに付け込んでるよこの人!! 親父の弱みって何だよ!! しかももう
育児じゃないだろ! ねえ!?」
「人というのは、どんなに年を重ねても未熟な生き物なのですよ、陛下」
「格好良い事言ってるけど、何か違うよ!!」
■月△日
案の定、若はわたくしの事を覚えていなかった。やはりあの頭では無理だったか・・・。
昔の事を説明するのも面倒なので、初めて会ったという事にしておいた。
「無茶苦茶失礼な事を書いてる!!!」
「真実を曇らせていたら、何も見えては来ませんよ、陛下」
「また何か格好良い事を言ってるけど、絶対何か違うし!!」
「その日記ももう終わりますね。次のをご覧になりますか?」
「まだあんの!?」
「はい。先日で45冊目に入りました」
「先日って・・・まだ僕は育児の段階!? 26にもなって!!」
「陛下、人というのは、どんなに年を重ねても未熟な」
「話がループしてるよ!!!」
ジュナールの育児日記は、まだまだ増えて行きそうです。
おわり
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