アルバム編

 西の国はいたって平和です。
 この日アルズ王子は、一人でお城の中を探検していました。お城はとても広く、まだアルズが
行っていない場所も沢山あるのです。

 アルズは東の廊下の一番奥の部屋にやって来ました。そこには、アルズの何倍もの高さの
本棚がズラリと並び、中にびっしりと本が保管されていました。
ぎゃあ寒気がする!! ははは早く出よっ」
 アルズは絵本以外の本が大嫌いです。鳥肌が全開になるほど大嫌いです。
 急いで出ようとしましたが、傍の本棚に目を引かれるものがありました。『アルバム』と書かれ
た本です。
「あるばむ? 何だろ」
 寒気も忘れて、アルズはアルバムと書かれた本を手に取って開いてみました。
 少し色褪せたページには、写真が綺麗に貼られてありました。
「わ・・・これ、僕が若かった時の写真だ」
 今でも十二分に若いですよ貴方は。
 アルズはその辺に転がっている椅子に腰をかけ、アルバムを夢中で見ました。
 全部アルズが赤ちゃんだった時の写真です。アルズはページをめくる度に、感嘆の声を漏ら
しました。
「うわー、小っさあ。こんな写真、撮られてたんだ」
 確かに赤ちゃんの時の記憶は無いものです。
 両親と写っているとても微笑ましい写真もありました。しかし、何でそんな大事な
物がこんな埃にまみれた場所に放置されているのか、今の
アルズの頭にそんな疑問はわきませんでした。
 まあ世の中、気付かない方が幸せな時もありますでしょう。
「・・・ん?」
 アルズが何かに気付いたようです。どうやら、写真に写っている人物が気になっているみた
いです。
「誰だろ、この女の人」
 赤ちゃんのアルズを抱いている、とても笑顔が美しい女性が写っていました。
 お母さんではないみたいです。でも、アルズはこの女性を知りません。
 アルバムの後半はほぼ、その女性とアルズの写真ばかりでした。
「むっっっちゃ気になる。この美人は誰だ?」
 乳母でしょうか? にしては若すぎる気もしました。
 酷く気になってしまい、アルズは何としてでもこの女性の事を突き止めようとしました。
「よーし、こうなったらパパに・・・いや、あてにならないからよそう。最近は昨日の夕飯も
覚えてないし
 国王様は大分もうろくして来てしまっているようです。
 アルズはアルバムを持って部屋から出ました。
「んーーーでも、誰に聞けばいいかなあ。メイドに聞いても知らないだろうし・・・」
 メイドは基本的に赤ちゃんの世話は出来ない事となっています。
 アルズは少し途方に暮れました。
 と、そこへ。
「ひぎゃああッ!!?」
「捕獲しましたよ、若。お勉強の時間です」
「いいいいいいいきなり後ろから掴み上げるなよーーーッッ!!! 寿命が三年縮まったわい
この筋肉メガネ!!!
「言葉遣いが悪いですよ、若。このまま窓の外へ放ってもよろしいのですよ?」
(※此処は三階)
イヤーーーッ!! イヤイヤイヤ降ろして下さいごめんなさい!!」
 王子であるのに、アルズは涙目になりながら教育係のジュナールにそう叫びました。
 ジュナールはそっとアルズを床に降ろしました。しかし、いくら幼児とは言え、片手でアルズを
持ち上げるとは、ジュナールはとても力持ちですね。
「さあ若、お勉強の時間です。床に座り込んでないで、早く行きますよ」
「ジュナールの所為で腰が抜けたんだよバカァッ!」
「人の所為にするのは良くない事ですよ」
「十中八九お前の所為だよ!!!」
「まあ一歩譲ってそういう事にしておきましょう。埒があきませんから」
「心底腹立たしいな」
 ジュナールはアルズが抱えている書物に目が行きました。
 そしてジュナールは言いました。
「若が書物を・・・。明日は世界の終わりでしょうか?」
失礼だなヲイ!!!! これはアルバムだよッ! あ、そーだ。ねえジュナー
ル、いや、でもなあ」
「何ですか? ハッキリ言わないと口を縫いますよ?」
その恐ろしい発想をどうにかしてよ!! いやさ、これ僕が赤ん坊の時のアルバムなんだ
けど、知らない人が写ってるんだよね」
「心霊じゃないのですか?」
だから怖い事言うなってば!! マジな顔して言うから信じちゃうじゃないか!!」
「では、見せて下さい。心霊でないか確認しましょう」
心霊って言うなよッ。ほらこれ! すっっっごい綺麗な人でしょ!」
 アルズは目を輝かせながら、赤ちゃんの自分と写ってる女性を指差しました。
 ジュナールは口元に手を当てて、フムと呟きました。
「心霊ではないようですね」
お化けネタ禁止!! 夜トイレに行けなくなっちゃうだろ!? で、誰だか知ってる?」
「知ってるも何も、これはわたくしですよ」
 沈黙。
 ・・・。
 ・・・・。
 ・・・・・。
「・・・・・・どぅえええええええええええッッッ!!!???」
「うるさいですよ、若。本気で口を縫いますよ」
「だだだだだだだだって!! どう見たって別人ぢゃないか!! メガネしてないし髪は結って
るし、何よりもお前はこんな輝かしく暖かく微笑んだりしない!!!
「若は覚えてはいないでしょうが・・・」
「語り出しちゃったよ!!」
「わたくしは若が1歳になるまで面倒を看ていたのですよ。覚えてないのも無理はありません
ね。その頭では
ちょっと待てコラ。赤ん坊なんだから覚えてないのは当たり前だろ!?」
 何と、この写真の女性は女性ではなく男性で、しかもジュナールだったようです。
 これにはアルズも吃驚し、何回も写真のジュナールと現物のジュナールを見比べました。
「似ているでしょう?」
いや全ッ然。怖いくらい面影が無いよ」
「若がわたくしのメガネや髪を引っ張ったりするので、仕方なくそういう姿になったのですよ」
「いやいやいやいやいやいや! 問題は顔だよ、顔ッ。何この笑顔」
 アルズは真っ青になって写真を震えながら指差しました。
 ジュナールは平然と言い返しました。
「昔から、写真写りは良いと言われておりまして」
「良すぎだろコレわ!!!」
「とにかく、早く部屋に戻りますよ。勉強時間が遅れています」
 アルズはジュナールに引きずられ、自分の部屋に連れ戻されて行きました。

 西の国はいたって平和です。
 アルズは立派な王様となるため、今日も勉強に励むのでした。
                                               おわり
☆おまけ☆
「ね、何で1歳の時までしか面倒看なかったの?」
「その時期が一番面白いからですよ」
「面白いって・・・」