おべんきょう編

 西の国はいたって平和です。
 王子であるアルズは立派な王様になるために、多くの事を学ばなければなりません。
 沢山の知識を持ってこそ、立派な王様への第一歩と言えるでしょう。

「若、お勉強の時間です」
「うえ〜? お昼寝の時間の間違いじゃないの?」
「早くも寝言ですか? 教育ボディブローで気分スッキリ爽快におなりになりますか」
気分グッタリ激痛だよそれ。ごめんなさい、身構えないで下さい。今行きます」
 アルズはノロノロとベッドから出て、教育係のジュナールが待つお勉強机に向かいました。
 アルズは勉強が大嫌いです。しかし、これも王子としてのアルズの勤めであり、立派な国王に
なるための修行なのです。
「それでは、若が一番嫌いな算数から行きましょうか」
「げっ、算数!? ううう、泣きそう・・・」
「どうぞ」
「酷ォッ!!」
 ジュナールはアルズの嘆きをサラリと流し、黒板に計算式を書いて行きました。
「若、昨日の掛け算と九九は覚えてますね? 今日は二桁かける二桁をやってみましょう」
「うう、解けるかな」
「大丈夫です。昨日はかろうじて二桁かける一桁の計算が出来たのですから。同じ要領で計算を
すればいいのですよ」
「今なんか小声で何か言わなかった?」
「ではまず、この88×12をやってみましょう」
ねえってば。もー、ジュナールはいつもそうだっ。ええと」
 アルズは黒板と睨めっこをし、ペンを持って手元の計算用紙にを使って問題に取り掛かり
ました。
「んーと、まず88と88を足して176・・・で、また88を足して、これで88を三つ足したから」
陽が暮れますよ若。誰が足し算をしろと言いましたか? 昨日と同じ要領で解けばいい
と申したはずです。鼓膜が腐ってるのですか?」
腐ってって・・・ホントに王子に対して容赦ないよね、君」
 仕方なくアルズは足し算を諦めました。
「もー面倒臭いなあ」
「足し算の方が遥かに面倒臭いですよ」
「ちえっ。えっと、8×2はー・・・16だからあ」
 どうやら、ちゃんと九九は覚えていたようです。ジュナールは少し安心しました。
「(まあ、あれだけ叩き込ませたのだから、当然ではありますね)」
 ※ジュナールは昨日、本当に読んで字の如く、アルズに九九を激しく叩き込みました。
 そして、しばらくして。
「よっしゃ出来たあ!!」
「言葉遣いが悪いですよ、若。では、お見せ下さい」
 アルズはジュナールに計算用紙を渡しました。
 最早、落書きに近い状態で数字が計算用紙に書きまくられ、もう余白がありません。たかが
掛け算一つだけで、一枚の紙が終わってしまいました。
 そして下の方に、『こたえ』と書かれた横に、アルズはこう書き記していました。


 こたえ  きっとものすごいかず


 瞬時にスパーンッ!!と気持ちのいい音が起こりました。
イイッッッッタアアア!!?? なななな何するんだよっ!! 紙を束ねてぶつ事ない
じゃんか!! 僕は王子だぞ!?」
「すみません、若。あまりの馬鹿馬鹿しい解答に、口よりも手が早く出てしまいました」
冷静に自分の身に起きた事を解説するなよ!!! 今度という
今度はパパに言いつけてやる!!」
「またしても子供じみた発想に返す言葉もありませんが、とりあえず返しておきます。陛下は必
要ならば体罰は許すと仰せです」
マジでえええッッ!!? 何だってそうあっさりお前の意見が通るんだよ!!」
「それは勿論、よ・・・・・・いいですか、若。まずこの計算は」
気になっちゃうだろハッキリ言えよ!! 今絶対に『弱み』って言おうと
しただろ!!!」
「断じて違います。ありもしない事を言わない事です。ろくな国王になりませんよ」
「ちゃっかり自分を正当化してるよこの腹黒教育係!!! しかもろくな大人じゃなくて、国王と
か言っちゃってるし!!」
「ともかく授業に戻りますよ、ばか、あ、違った。若」
「今のわざとだろーーーッッ!!」

 西の国はいたって平和です。
 アルズは立派な王様となるため、今日も勉強に励むのでした。
                                               おわり