しりとり編
西の国はいたって平和です。
王様であるアルズは仕事の最中、五分に一回は
「暇だなあ」
と、呟いていました。
ペンを走らせていたアルズの手が止まりました。大臣のジュナールの目が厳しく光ります。
「陛下、持病のリュウマチですか? わたくしがツボでも貫いて、治してさしあげましょう」
「貫いちゃうもんなの!? つーか持病なんて持ってないし!!」
ジュナールの言葉に青ざめながら、アルズは段々と休憩モードに突入して行ってました。
「陛下、まだ十分の一も終わっていませんよ」
「休憩だ、休憩。大体、何でこんなゴミの山の如く文書があるんだ」
「向かいまして右側から五日前の分、四日前の分、三日前の分、そして一昨日、昨日、
今日の分でございます。陛下が鬱陶しいくらい暇だコールをして執務をサボった結果です」
「いちいち国王に対して失礼な単語を入れるよね、君わ」
確かにこの文書の量は、アルズの自業自得の表れです。果たして『今日』の分も『昨日』の
分として回されてしまうのでしょうか。
ジュナールは溜息をつきました。
「陛下、どうしたらまともに執務を行ってくれるのですか? ひねりますよ、つむじを」
「どどどどうやって!?」
ジュナールは真顔でそんな事ばかり言うので、いまだにアルズには冗談なのか本気なのか
解りません。
そして、長年言われ続けているにもかかわらず、アルズはなかなかジュナールの怖い発言に
慣れる事はありませんでした。
アルズは口を尖らせてジュナールに言いました。
「えーまともにぃー? ほらさあ、よくあるじゃないか。やらなきゃいけないとは頭では解ってるけ
ど、身体がなかなか実行してくれない時」
「何をしがない物書き屋みたいな戯言を言っているのですか」
「戯言扱いなの!? 僕の解りやすい例えが戯言扱い!? ねえ!!?」
「はい」
「わー間髪入れずに入っちゃったよこの人ーーーッ!!」
アルズは悔しそうに涙目になりながら、ジュナールに言い放ちました。
「とにかく僕は休憩する! 休憩して遊んでやる!」
とうとうアルズは机から離れてしまいました。
餌付けする手もありますが、余計に付け上がるかも知れません。そう考えたジュナールは、
別の手段を思いついたのでした。
「では陛下、わたくしが暇つぶしの相手となりましょう」
「なぞなぞやかくれんぼはもう嫌だぞ」
大分トラウマになっている様子です。
「それは残念。でしたら、しりとりは如何でしょうか」
「しりとりか・・・懐かしいな。よし、それやろ!」
「終わったら執務を行う事を約束して下さいますか?」
「うむ!」
「それは良かった。では陛下からどうぞ」
「よーしっ。んー・・・と、クレープ!」
「プリン」
「終わっちゃったよ!!!!」
「・・・流石です、陛下。いやはや、お強い事で」
「白々しいよアンタ!!」
「さあ約束です。執務を再開して下さい」
「くそーーーッ! だまされた!! この謀略腹黒大臣!!!」
「言葉遣いが悪いですよ、陛下。暑苦しいです」
「暑苦しいの!?」
西の国はいたって平和です。
今日も王様と大臣は国のために、一生懸命お仕事をするのでした。
おわり
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