キャンディ編
西の国はいたって平和です。
アルズは国の若き王であり、今日も死に物狂いでジュナール大臣と共に執務を行って
いました。
ジュナールがまた新しい文書を持って来ると、アルズの頬が約一センチほど痩せこけまし
た。
「ちょ・・・タンマ。まだあるの?」
「まだありますとも、陛下」
サラリと涼しい顔をしてジュナールが答えました。
アルズはペンを置いてしまいました。これはアルズの集中力が途切れた危険信号です。
「疲れた・・・。なーんか甘い物でも欲しいなあ」
「陛下、寝言ですか? 大臣スイングで起こしてさしあげましょう」
「甘い物欲しいって言っただけでそんな体罰!? 怖すぎるよ君!」
「体罰ではありません。大臣流の起こし方です」
「改善してよ。頼むから」
それからアルズはしきりにジュナールに、甘い物を持って来いと騒ぎ出しました。
そのまま大臣がためをやっても良かったのですが、ジュナールは此処は一先ず穏便に行く
事にしました。
「陛下、おやつはもう済んだはずです」
「済んだって甘い物は欲しいんだっ。糖分は疲れを癒すんだぞコルァッ!」
「言葉遣いが悪いですよ、陛下。陛下にしては珍しく一般常識をお持ちになっていたので、褒め
ようと思いましたがやめときます」
「国王陛下に対して随分な口を利いてない!!!??」
「仕方ありませんね。ちょっとお待ちを」
「サラリと流したよこの腹黒大臣」
ジュナールはメイドを呼ぶと、『アレ』を持って来るよう指示しました。
「ジュナール、『アレ』とは何だ」
アルズが尋ねると、キラリとジュナールのメガネが不敵に光りました。
「あ、うん、何でもない。来てからのお楽しみね、ハイ」
さて、『アレ』とは何でしょうか。
しばらくして、メイド達がいくつかのガラスの瓶を持って来ました。中には様々な色のキャン
ディが入っています。
「わー飴玉だっ! 何味があるのだ?」
アルズは子供のように目を輝かせて聞きました。
「はい。シソ、ウメジソ、ゴーヤ、ハッカなどがございます」
「スイーティかフルーティな味は無いのかよ!!! というか、ゴー
ヤ味って何だよ! あるのそんな味の飴!?」
「お試し下さい」
「い・・・いいい。遠慮しとく・・・」
ますますぐったりして、アルズは机に突っ伏してしまいました。
「ううう・・・甘い物が欲しい・・・甘い物あまいものアマイモノ・・・」
「鬱陶しいですよ、陛下。ぶちかましますよ」
「な、何を!?」
アルズはあまりお気に召さなかったようなので、ジュナールはメイドに別の物を持って来させ
ました。
今度もまたキャンディです。アルズは顔をしかめました。
「もういい。どうせまた変な味のだろう。赤キャベツとか」
「被害妄想ですよ、陛下。今度のはピーチです」
「最初からそれ出してよ!!」
半泣きになりながら、アルズはジュナールからキャンディを受け取りました。
ピンク色のキャンディを口に放り込むと、甘い味がアルズの口いっぱいに広がりました。
「如何ですか?」
「うん、美味しいぞっ。ちょっと酸味が利いてるとこがいいな」
アルズは大変満足な様子でした。
ジュナールもホッとした様子です。
「酸味があるという事は、やはり少々傷んでいたみたいですね。しかし陛下の様態は依然変わらない。
まあ、食べれなくはないようですね」
「小声で何を言ってるのちょっとおお!!?」
西の国はいたって平和です。
今日も王様と大臣は国のために、一生懸命お仕事をするのでした。
おわり
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