なぞなぞ編
西の国はいたって平和です。
その国の王様はとても若く、まだ庭を駆けずり回って遊んでいたい気持ちを抑えては、毎日
お仕事に時間を費やし
「はあ、暇だ」
・・・てはいませんでした。
「陛下、暇暇と連呼していないで、ちゃんと執務を行って下さい。しまいには大臣ツイストを食ら
わしますよ」
「ま、真顔でそんな事を言うなよ。怖いなあ、ジュナールは」
恐ろしいくらい無表情ですが、ジュナール大臣はアルズ国王陛下にとても忠実です。
ジュナールは山になった文書を叩きながら、アルズに言いました。
「今日中にすべてを終えろとは申しません。半分だけでも処理して下さい」
「いやーでもさー、僕はまだ遊び盛りだしー」
「26歳にもなって何を寝言を口走っているのですか。普通なら結婚しても良いお年です」
「マジで!?」
「言葉遣いが悪いですよ、陛下」
「本当ですの? まあっ、困るわ」
「女性口調にする意図が不明ですが、下らない事をいつまでも続けていると、本気で仕掛けま
すよ」
ジュナールは無表情なので、本気だか冗談かは解りません。
でも、きっと十中八九本気でしょう。
アルズは渋々ペンを握りましたが、あまり長くは続きませんでした。今は26の男性とはいえ、
アルズが即位したのは19の時です。
十代にしてこの堅苦しい地位に就いてしまったアルズを、ジュナールはほんの少し可哀想だ
と思っていました。
「(やはり伸び伸びとご成長した方が、陛下のためであった)」
「暇だぁ〜。あー暇暇たいくつ。,ねージュナール、この字、読めないんだけど」
「(少なくとも、その方が今よりずっと国王としての自覚が芽生えたはずだ)」
暇だ暇だと言い続けるアルズに、とうとうジュナールは折れました。
何にせよ、早くこの文書を片付けなければなりません。そのためには、アルズに気分転換さ
せるべきだ。そうジュナールは考えたのでした。
「解りました。陛下、わたくしが陛下に謎解きをお出しします」
「なぞなぞ?」
「ええ。これが済みましたら、ちゃんとお仕事をなさってくれますか?」
「解った! するする! で、問題は?」
アルズは子供のような顔をして、ジュナールの言葉に耳を傾けました。
「では参ります。トムという若者は、農場でガチョウを二羽と、七面鳥を一羽と、アヒルを四羽飼
っていました。そしてトムは一週間、毎日鳥達を食べました。さて、残りは何羽でしょうか」
アルズは一瞬、目をきょとんとさせました。ジュナールは相変わらず無表情です。
さあ、アルズはこのなぞなぞが解けるのでしょうか。
以下はアルズの頭の中になります。
な・・・何だってそのトムの農場には鳥類しか居ないんだ。もっとほら、牛とか豚とか居るだ
ろ。
というより、農場に居る鳥として七面鳥はないだろ! ガチョウとアヒルならまだ解るけど、
何で農場の鳥と言われている(とアルズが勝手に思い込んでいる)ニワトリが居ないんだ
よ!!
つーか鳥食べ過ぎだろトム!
野菜も食べろよトム!
勤労感謝の日でもないのに七面鳥を食べるなんて贅沢だぞトム!
あ、今は七面鳥は食べちゃいけないんじゃなかったか? 数が減ったかなんかで。
うーーーん・・・忘れた。
そんな事より、今はなぞなぞだよ!! トムの食生活なんて知ったこっちゃないっての!
えーと、二羽に・・・一羽に・・・四羽、だったよな。鳥の数。
で、一週間毎日食べてたって事は・・・・・・
「え・・・普通に・・・ゼロなんじゃ、ないの?」
恐る恐る言ったアルズの言葉を聞いて、ジュナールはメガネをキラリと光らせました。
その様子を見たアルズは、ハッとして後悔しました。
しまっっっったああああーーーーーー!!!
相手は知力と腹黒い計画を立てるのが国一番の男だぞ!? んな引き算チックの簡単な
なぞなぞなんて、出す訳がないじゃん!!
もっとじっくりねっとりベタベタに考えるべきだったーーーッ!!
恐らくきっと、どうでもいいトムの物語中に、何か重大なヒントが隠され
「正解です、陛下」
「って普通の引き算かよ!!!」
「言葉遣いが悪いですよ、陛下。最悪最低です」
「そこまで言う!? 何だよもうっ。無駄にドキワク(ドキドキワクワクの意)しちゃったじゃない
か!」
「良い暇つぶしになったでしょう?」
「なってないよっ。うわーん、大損したっ」
「ともあれ、約束どおり仕上げて下さい。でなければ、大臣ドロップを食らわす上、おやつ抜き
です」
「技増えてない!? てゆーか鬼ィーーーッ!!」
西の国はいたって平和です。
今日も王様と大臣は国のために、一生懸命お仕事をするのでした。
おわり
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